はじめに
「子どもがいるのに、遺族年金をもらえない」——そんな理不尽な状況が、法律の改正によって解消されます。
令和7年(2025年)に成立した年金制度改正では、遺族基礎年金のルールが大きく見直されました。
施行は令和10年(2028年)4月から。
まだ先の話に感じるかもしれませんが、今の状況を正しく理解しておくことが、将来の大切な選択に直結します。
この記事では、
- 遺族基礎年金の改正でどう変わるのか
- 死亡一時金との関係で注意すべきこと
の2点を、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。
遺族基礎年金とは
まず基本を確認しておきましょう。
遺族基礎年金とは、国民年金に加入していた方が亡くなったとき等に、残された子のある配偶者または子に支給される年金です。
ここでいう「子」とは、
- 18歳になった年度の末日(3月31日)までの子
- または障害がある場合は20歳未満の子
を指します。
遺族基礎年金は、残された家族の生活を支えるための制度ですが、これまでのルールには「子どもがいるのにもらえない」という不合理なケースが存在していました。
改正前の問題点——もらえる権利があるのに、もらえない
なぜ「支給停止」になっていたのか
現行のルールでは、子に遺族基礎年金の受給権が発生しても、生計を同じくする父または母がいる場合は支給停止となっています。
つまり、こういう状況です。
父が亡くなった。父と生計がある子どもには遺族基礎年金をもらう権利がある。
でも、母と一緒に暮らしているから——支給停止。
「一緒に暮らしているお母さんが面倒を見ているから大丈夫でしょ」という考え方が根底にありましたが、そのお母さん自身が遺族基礎年金をもらえない場合はどうなるのか。
実はそうしたケースが存在していました。
問題になっていた具体的な状況
- 妻が再婚したため、遺族基礎年金の受給権を失った
- 妻の年収が850万円以上で、収入要件を超えていた
- 離婚後に元夫が死亡し、元妻には受給権がなかった
こうした場合、父または母は遺族基礎年金をもらえず、子どもも支給停止——家族全員が受け取れないという状態が生じています。
今回の改正により、親の状況にかかわらず、子育てをする家庭が支援を受けられるよう、制度が見直されることになりました。
改正後のルール——令和10年4月から何が変わるか
大原則:父母と生計を同じくしていても、子は遺族基礎年金を受け取れる
令和10年(2028年)4月以降、父または母と生計を同じくしていても、子は遺族基礎年金を受け取ることができるようになります。
ただし条件があります。
父または母が遺族基礎年金を受け取れない場合(受取る権利がない場合)に限る
つまり、父または母が遺族基礎年金をもらえる場合は、これまでどおり子への支給は行われません(一家で重複して受け取ることはできません)。
具体的な事例
では、4つの代表的なケースを見てみましょう。

事例1:妻が再婚したケース
🔥状況
元夫の死亡後、妻(子の母)が遺族基礎年金を受給していたが、その後再婚したため受給権を失った。
❄️改正前
母と生計を同じくしている
→ 子の遺族基礎年金は支給停止
☀️改正後(令和10年4月〜)
母は再婚により受給権を失っている
→子は遺族基礎年金を受け取れる
事例2:妻の年収が850万円以上のケース
🔥状況
夫が死亡。妻は高収入(年収850万円以上、所得655.5万円以上)のため、収入要件を超えており遺族基礎年金を受け取れない。
❄️改正前
妻と生計を同じくしている
→ 子の遺族基礎年金は支給停止
☀️改正後(令和10年4月〜)
妻は収入要件超過で受給権なしのため → 子は遺族基礎年金を受け取れる
事例3:離婚後、元妻が子を引き取ったケース
状況
離婚後、子どもを養育していた元夫が死亡。元夫の死亡後、子どもは元妻(離婚済み)に引き取られた。
改正前
元妻は離婚しているため遺族基礎年金の受給権なし。
しかし元妻と生計を同じくしているため → 子の遺族基礎年金は支給停止
改正後(令和10年4月〜)
元妻には受給権がないため → 子は遺族基礎年金を受け取れる
事例4:祖父母などの養子になったケース
状況
祖父母などの直系血族(または直系姻族)の養子となり、生計を同じくしている。
改正後(令和10年4月〜)
→ 子は遺族基礎年金を受け取れる
注意が必要!——死亡一時金と遺族基礎年金の関係
亡くなった日(死亡日)によって、死亡一時金と遺族基礎年金の受け取り方が大きく異なります。順番に確認していきましょう。
死亡一時金とは
死亡一時金とは、国民年金の保険料を一定期間納めた方が亡くなったとき、遺族に支給される一時金です。
受け取ることができる遺族の順番は以下のとおりです。
ただし、以下の場合は受け取ることができません。
- 死亡した方が老齢基礎年金・障害基礎年金を受け取っていた場合
- 遺族基礎年金を受け取ることができる方がいる場合
また、死亡日の翌日から2年以内に請求しないと権利が消滅しますので注意が必要です。
基本パターン:子の父または母が死亡一時金を受け取る場合
子と生計を同じくする父母が所得超過により遺族基礎年金の受給権がない場合、子は遺族基礎年金の受給権は発生しますが実質的に受取ることができません。この場合、父母に死亡一時金が支給されます。
しかし、法改正により子に遺族基礎年金が支給されるため、死亡一時金を支給がありません。

では、すでに死亡一時金をもらった人が遺族基礎年金をもらえないのか?という問題が生じるため、死亡日に応じて、遺族基礎年金と死亡一時金との関係が次のとおり整理されました。

① 令和8年3月31日以前に亡くなった場合
子と生計を同じくする父または母が死亡一時金を受け取っていても、令和10年4月以降、子は遺族基礎年金を受け取ることができます。
→ 死亡一時金と遺族基礎年金、両方受け取れます。
② 令和8年4月1日〜令和10年3月31日に亡くなった場合
子と生計を同じくする父または母が死亡一時金を受け取った場合、法改正後(令和10年4月以降)も子の遺族基礎年金は支給停止が継続されます。
→ 死亡一時金を受け取ると、遺族基礎年金は受け取れません。
③ 令和10年4月1日以降に亡くなった場合
現行どおり、遺族基礎年金が支給される場合、死亡一時金は支給されません。
遺族基礎年金と死亡一時金どちらを選ぶべき?有利・不利の判断ポイント

令和8年4月1日から令和10年3月31日までの死亡は、令和10年4月から受け取れる遺族基礎年金と死亡一時金を受取るか判断しなければならない場合があります。
「遺族基礎年金の方がいいに決まっている」とは限りません。
死亡一時金の方が有利になる場合もあります。
- 令和10年3月以前に、子が年齢到達により遺族基礎年金の受給権を失う場合(せっかく支給停止が解除されても受け取れる期間が短い)
- 遺族基礎年金の総支給額より死亡一時金の額が多い場合
また、子が障害の状態にあるかどうかによっても判断が変わります。子が20歳まで受けとることができるためです。
どちらが有利かは個別の状況によりますので、年金事務所への相談をおすすめします。
例外パターン:後妻など「子の父母以外」が死亡一時金を受け取る場合
離婚後に元夫が再婚しており、子は元妻に引き取られているようなケースでは、後妻(子の父母ではない)が死亡一時金を受け取る場合があります。この場合はルールが異なります。

① 令和10年3月31日以前に亡くなった場合
後妻が死亡一時金を受け取っていても、子との間に生計維持関係がないため、子の遺族基礎年金への影響は限定的です。
- 令和10年3月分まで:子の遺族基礎年金は支給停止
- 令和10年4月分から:子は遺族基礎年金を受け取れる
→ 後妻の死亡一時金と子の遺族基礎年金、両方受け取れます。
② 令和10年4月1日以降に亡くなった場合
- 後妻:死亡一時金を受け取れる
- 子:遺族基礎年金を受け取れる
→ こちらも両方受け取れます。
まとめ:今回の改正のポイント整理
まとめ:今回の改正のポイント整理
今回の改正の核心は、「子育てをする家庭を、親の状況にかかわらず支援する」という考え方です。
これまでは、父または母と同居しているだけで子の遺族基礎年金が支給停止となるケースがありましたが、令和10年(2028年)4月1日以降は、父または母に遺族基礎年金の受給権がなければ、同居していても子は遺族基礎年金を受け取ることができるようになります。
ただし、あわせて注意しておきたいのが死亡一時金との関係です。
亡くなった日が令和8年4月1日以降の場合、父または母が死亡一時金を受け取ると、法改正後も子の遺族基礎年金が支給されないケースがあります。また、令和10年4月1日以降に亡くなった場合は、遺族基礎年金が支給される場合には死亡一時金はそもそも支給されません。
つまり、死亡一時金と遺族基礎年金のどちらを受け取るかが、将来の受取額に大きく影響する場合があります。状況によっては、遺族基礎年金よりも死亡一時金の方が有利になるケースもあるため、どちらが得かをしっかり計算したうえで判断することが重要です。
なお、死亡一時金には請求期限があります。死亡日の翌日から2年を過ぎると請求できなくなりますので、この点もご注意ください。
「自分のケースはどうなるのか」と迷う方は、早めに年金事務所へご相談されることをおすすめします。
・本記事は令和7年時点の法令に基づいて作成しています。今後の政令・省令等により詳細が変わる場合があります。
・本記事は厚生労働省および日本年金機構の遺族年金ガイド等、公開されている資料をもとに作成しています。
参考資料:厚生労働省HP・日本年金機構HP