はじめに
年金の現場で、もっとも複雑で、時に「家族の火種」となるのが、
「誰が遺族年金を受け取るのか?」いう問題です。
なかでも――
「本妻」と「前妻の子」がいる場合。
これは、支給順位の仕組みを正確に理解していないと、思わぬ混乱を招きます。
今回の小話は、そんな“複雑な家族構成と制度の交差点”を描いたお話です。
遺族年金の支給順位
まずは原則を整理しましょう。
遺族年金の支給順位は、次のとおりです。
(日本年金機構HPより)
受取の優先順位でいえば、次のとおり。

つまり――
遺族年金は、子のない配偶者よりも「子」が優先なのです。
ある日の出来事 ― とと家のケース
とと太郎さん
昭和30年生まれ。
令和5年5月5日、70歳で逝去。
厚生年金加入期間=400月。
とと勝子さん
太郎さんの再婚相手。
死亡当時、太郎さんと生計維持関係あり。
ただし、二人の間に20歳未満の子はなし。
勝子さんは、夫の死後、遺族厚生年金を申請。
無事に年金証書が届き、安心して生活を始めました。
ところが――
ある日、日本年金機構から1通の封書が届きます。
「遺族厚生年金の過払いが発生しました。返還をお願いします。」
とと 勝子えっ!?
これって、今流行りの詐欺かしら?
慌てて年金事務所に問い合わせると、
「先順位者から遺族年金の請求がありました」との説明。
しかし、先順位者が誰なのかは教えてもらえません。
先順位者の正体は…



そういえば…夫には、前の奥さんとの間に子どもがいたと聞いたことが…


遺族年金の仕組み



亡くなられた方から子へ養育費が支払われていたなどの事実があれば、「生計維持関係あり」として子に遺族年金が発生します。
その場合、子のいない配偶者よりも優先的に「子」へ遺族年金が支払われます。
どういう仕組み?
夫が亡くなった時、
本妻と前妻の子がそれぞれ夫と生計維持関係にあった場合――
- 本妻には「遺族厚生年金」の受給権が発生。
- 前妻の子には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の受給権が発生。
このとき、「子」は「子のない妻」より優先順位が高いため、
子が18歳最初の年度末(または障害等級1・2級以上なら20歳)になるまで、
子が遺族年金を受け取ります。
本妻の年金はどうなる?
子が年金を受け取っている間、
子のない妻の遺族厚生年金は支給停止になります。
つまり、子が失権するまでは、妻は遺族年金を1円も受け取れません。
ただし――
子が失権した後、
子のない妻の遺族厚生年金は支給停止解除届を提出することで、支給されます。
その後は、子のない妻が再婚などの失権事由に該当しない限り、生涯受け取ることが可能です。
ポイントまとめ
| 対象 | 優先順位 | 受給期間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 子(18歳年度末まで/障害等級1・2級なら20歳まで) | 1位 | 受給中は子のない妻の年金は支給停止 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金 |
| 子のない妻 | 2位 | 子が失権後に支給再開 | 遺族厚生年金 支給停止消滅届が必要 |



子が失権するのは遅くとも
18歳最初の年度末
もしくは
障害等級1・2級に該当する場合は20歳
です。
補足:子の支給停止について


(厚生労働省H Pより)
子に遺族基礎年金+遺族厚生年金の受給権があっても、
その子が父・母と生計維持関係にある場合、
遺族基礎年金は支給停止になります。
その場合、遺族厚生年金のみを受取ります。
ただし、令和7年改正により、将来的には遺族基礎年金も支給される見込みです。(令和10年4月改正予定)
おわりに
遺族年金の世界では、「誰がもらえるか」は続柄・生計維持関係などで決まります。
誰が悪いという話ではなく、制度上そのように「設計されている」のです。
だからこそ――
「知らなかった」では済まない現実があります。
もしあなたやご家族に「再婚」「前妻(夫)との子」など複雑な関係があるなら、今のうちに年金事務所や社会保険労務士に相談しておいた方が良いと思います。
自分がいつから、どのくらいもらえるのかはとても重要です。
<確認しておきたいこと>
✅ 現在の家族関係と生計維持の状況を確認
✅ 支給順位を整理
✅ 遺族年金の金額を確認
それが、今後の生活を守る「備え」となります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。


